洋書についての記述
組織はどんどん変わっていくため、組織名称が変わり、総務部という名前がなくなり、別の名前で登録される可能性もある。
そもそも、顧客データベースをきれいにする、コード体系をしっかりするという基本ができていない企業が、顧客別の収益を計算することは困難である。
それができていなければ、CRMで実現しようとしていることの達成も難しい。
顧客別の収益を特定できないため、顧客にどこまでのサービス・レベルを提供すべきかなど、施策の評価や判断もできないことになる。
しかし、収益面の課題は最終的には体力勝負で何とかできるものではある。
たとえば、営業マンが一年間かけて少しずつお客さまを訪問するたびに整理していく。
あるいは一カ月か二カ月間に集中して人手をかけて、実際に電話をかけたり、自動名寄せである条件を満たすデータベースを作成しておき、問い合わせがある都度に確かめる方法などもある。
売上面の計算は知恵ではなく、時間と忍耐力の問題と言える。
顧客別売り上げより、特定の顧客にかけているコストがいくらかを算出する方が、ずっと複雑な問題になる。
A商品が売れたことがわかれば、商品の原価がいくらかは特定できる。
そのため、製品あるいは商品別の粗利益での把握は比較的簡単である。
問題はその下の経費にあたるところである。
たとえばDMを打った費用、コールセンターの運営費用、あるいは営業マンの人件費などの費用をどうやって分解し、個別の顧客のコストとして認識するかを決めるには、工夫が必要だ。
多くの会社では、プロモーションやDMにかけた費用を部門費用として組織別にわかるようにしてあるが、顧客別に分解することはほとんどない。
同様に営業マンの人件費や経費も組織別にはわかるが、顧客別や法人別には分解されていない。
さらに、コンピュータや事務所を使うコストにも分解されていない。
しかも、通常は売り上げに左右されない人件費や経費、設備費などの費用、いわゆる固定費をいかに顧客単位に関係づけるかが課題なのである。
アクティビティー・ペースド・コステイング(ABC)と言われる概念がある。
本書でもすでに概要を前述しているが、たとえばセールスマンであれば、どの顧客のためにどれだけの時間を使ったかという基準で、人件費を顧客別に分配する考え方である。
口座登録をする部円であれば、口座登録の処理件数をもとに、どの顧客のためにどれだけ働いたかを決めて、部門の費用を配賦するのである。
配賦額を決定するためには、業務をアクティビティーと呼ばれる細かい作業に分割し、何によって増減するかを定義する。
たとえば倉庫の仕事であれば、商品の入庫、出庫、移動、払い出しの回数に比例して業務量が増減する。
個々の作業をどの製品のために何回行ったかを計算して、回数に比例して配賦するのである。
配賦基準を、売上高といった必ずしも作業量の大小とは一致しない基準にするより納得感もあり、正確な原価により近いと言える。
ところが、ABCの議論を始めると、配賦基準がどんどん細かくなっていく傾向が見られる。
正確に配賦の基準と係数を出すためにはどうすればよいのか、あるいはA製品とB製品とを比較すると手間のかかり方が少し違うが、その労働量の比率を一対一・二とすべきか、一・三が妥当かなど、細かいところに議論が集中し始めるのである。
いよいよ議論が盛り上がってくると、真の原価、本当の原価はいくらなのかというところに議論が行き着く。
そうなると行き詰まってしまい、その後いくら議論を重ねても、経営管理という観点からは使えないものになってしまう。
筆者は、ある企業で原価計算のためにアクティビティーを定義したことがある。
プロジェクト開始時は、なるべくシンプルな方がよいということで、数百の単位(それでも多いくらいだが、5OOや6OO)でひとまずの体系づくりを行っていた。
ところが、クライアント内で担当者と各部門が議論を重ねるうちに、製品別、商品別にさらに細かくしていくことになり、最終的には、三万種類のアクティビティーを設定して原価を計算することになってしまったのである。
三万種類のアクティビティーによって計算されたと言っても、ビジネスの現場が実際に見るのはひとつの損益計算書であり、顧客別のコストがいくらかという集約された数字になる。
ところが三万も変数があると、大多数の人にとっては計算過程が理解できなくなってしまう。
要するに、ブラック・ボックス化してしまって、何をやれば収益が上がったり下がったりするのかという大事なところがかえって見えなくなってしまう。
これがいわゆる「真の原価議論」の陥りやすい民である。
理想を追いがちな経理や財務に詳しい担当者と、要求に合わせて細かく精般にシステムをつくり込んでいく情報システムのプロがベアになると、必要以上の品質を追ってしまうケースが起こりうるのである。
一方、毎年毎年三万種類のアクティビティーをメンテナンスして、それに関係した計数を更新していく作業を継続して行うのも困難である。
実際に三万種類のアクティビティーを定義した企業も、「毎年更新するのは何種類ですか」と聞くと、「まあ1000くらいかなあ」という答えが返ってくる。
それなら初めからアクティビティーや2000に絞って整理しておけばよいという結論にならないともかぎらない。
ITコンサルティングのマインドとスキルの観点で言えば、その数字を誰が管理して誰が使うのかと、誰がそれを使って何をコントロールするのかを一個一個明らかにしていけば、自ずとその答えは出てくるのである。
たとえば一営業マンが使える裁量権は、特定の顧客を何回訪問するかとか、その顧客にどれだけディスカウントするかといったことで、それによって交通費や経費が変わってきたり、値引きで利益率が変わるのである。
あるいはDMを何回出すか、どれだけのパンフレットを送るかといったプロモーションにも影響される。
したがって、彼にとってはそのあたりが施策によって変わる変動費であり、目に見える数字である。
それ以外の、オフィスがどうしたかとか、情報システムがどうしたかといった費用は、彼にはコントロール不可能である。
そうすると、彼のところにいく数字は、変動費の範囲で十分なのである。
部門のマネジャーになると少し事情は異なる。
部門としてどこに拠点を置くのか、どのくらいの人数を考えるのか、あるいは年間でどのくらいのプロモーション・コストを考えるのかということで、部門全体としての費用が変わる。
彼にとっては、これらは自分で意思決定可能な費用である。
しかし、それ以上の投資にかかわる部分などに関しては、意思決定が不可能になる。
事業部長クラスになると、オフィスそのものを賃料の高いところ、安いところと選ぶことができる。
また、投資、たとえば情報システムにどれだけ投資するかといったことも、意思決定の範囲に含まれるわけだ。
意思決定の範囲を区切ったときに、どのレベルの数字を誰に出せれば実際の意思決定に役立つのかが重要である。
逆に言えば、ビジネスの現場がコントロールできる程度の数字が出れば、本来役に立つわけである。
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